スペインかぜは、なぜ「スペインかぜ」なのか?
コロナウイルスが猖獗を極めています。
SARS, MERS, エボラ出血熱、チフス、コレラ、ペスト…
人類はこれまで様々な感染症・疫病に苦しめられてきました。
世界的流行を起こし猛威をふるった感染症のひとつに、「スペインかぜ」があります。
スペインかぜとは、
1918年から1919年にかけて世界的に大流行したインフルエンザのことです。
WHOの情報によると、このスペイン風邪は、
なんと当時の世界人口の約33%(つまり世界の約3人に1人)が感染し、
死者は2000万人以上にものぼったと伝えられています。
世界人口の約3分の1が感染したということで、
当たり前ではありますが、
著名人も多く罹患しており、
ウォルト・ディズニーや、
作家のフランツ・カフカ、
画家のエドヴァルド・ムンクなども、
このスペインかぜに苦しめられました。
(ムンクはスペインかぜにかかった自画像を描いています!)
さて、このスペインかぜ、
なぜ「スペインかぜ」と呼ばれたかご存じでしょうか?
「スペインで発生したから」?
….ちがいます。(笑)
実は、発生源は、
今日でも、
「不明」
なままなのです。
では、なぜ「スペインかぜ」なのか?
今回はその理由についてお話しします。
スペインかぜが流行し始めた1918年は、
第一次世界大戦の時代でした。
第一次世界大戦は、
1908年にボスニア・ヘルツェゴヴィナを併合したオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子夫妻が、
1914年にボスニアの州都サライェヴォを訪れた際、
パン=スラヴ主義のグループに属していたセルビアの学生に殺害された事件(サライェヴォ事件)を引き金として始まったといわれる戦争です。
オーストリア=ハンガリー帝国とボスニア・ヘルツェゴヴィナとの間の紛争で終わるかと思いきや、
最終的には世界31か国を巻き込んだ、
最初の世界的規模の戦争となりました。
ここで参戦国を列挙します。
….はい。
おわかりいただけましたでしょうか。
スペインがありません。
そうなんです。
スペインは第一次世界大戦に参戦していませんでした。
中立国だったのです。
実は、このスペインが中立国であったことが、
発生源不明のインフルエンザが「スペインかぜ」と呼ばれるようになった
原因なのです。
一国の元首になったつもりで想像してみてください。
自分の国で感染症が猛威を奮っていたら、どうしますか?
治療できるような体制を整える?
もちろんそれも大事なんですけど、
戦争中なら、
もっと緊急で対応しなければいけないことがあります。
「それを知られないようにすること」です。
考えてみてください。
もし、戦争中に、
今、自分の国でインフルエンザが大流行していると知られてしまうと、どうなるでしょう?
敵国に攻められてしまいますよね。
混乱して弱っているところを知られてしまうなんて、
敵に今攻めてくださいと言ってるようなもんですよね。
だからインフルエンザが流行し始めた頃、
参戦国はみな、敵国に知られないようにと、
報道統制をしていたのです。
一方で、
スペインは中立国ですので、
そういった統制がありませんでした。
ですので、当時のインフルエンザの情報は、
スペインからの報道が主な情報源となっていたのです。
https://historia.nationalgeographic.com.es/a/gripe-espanola-primera-pandemia-global_12836
(Gripe española: la primera pandemia global より引用 )
スペインから情報発信されるかぜ…..
このことから、
いつしか「スペインかぜ」という名称で、
このインフルエンザは呼ばれるようになってしまったのです。
この「スペインかぜ」という呼称、
100年経った今、
「発生源と誤解されるので変えるべき」
「不名誉だ」
という考え方もあると思います。
でもその反面、
今回の経緯を知ると、
第一次世界大戦当時、
スペインがどのような立場で、
どのような役割を果たしていたかを知ることが出来る、
歴史遺産としても、見えてくるのではないでしょうか。
<参考URL>
https://www.who.int/influenza/gip-anniversary/quiz/en/
WHO | Test your knowledge of the 1918 Influenza Pandemic, commonly known as Spanish Flu:
https://www.who.int/formerstaff/publications/qnt102r.pdf
Governance of dual-use research: an ethical dilemma Michael J Selgelida
https://www.smithsonianmag.com/history/ten-famous-people-who-survived-1918-flu-180965336/
Ten Famous People Who Survived the 1918 Flu | History | Smithsonian Magazine
https://historia.nationalgeographic.com.es/a/gripe-espanola-primera-pandemia-global_12836
Gripe española: la primera pandemia global
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ディスカッション
コメント一覧
小松左京さんの名作で復活の日と言うのがありましたね、草刈正雄さんの主演で映画化もされました。
細菌兵器が流出して世界中に蔓延して、南極だけが無事で南極にいる人だけが助かって人類が滅亡の危機になります。
さらに大地震がおき、人の居なくなった軍事基地では、それを他国からの核攻撃と勘違いしたシステムが核戦争になる危険があり、それを阻止しにいくストーリーでした。
今ではSFと言えずにリアリティーを持ってしまったのが怖いです。
そうですね。歴史や小説は常に未来への警告となっていることがわかります。